【討論】本庄早稲田の杜ミュージアムの条例制定について(2019年第4回定例会・反対討論)

 第79号議案、「本庄早稲田の杜ミュージアムの設置及び管理に関する条例」について、制定することに反対の立場から討論を行います。

 第79号議案は、本庄早稲田の杜ミュージアムを新規に設置し、管理するにあたり、必要な事項を定めるものです。

 しかしながら、あまりにも条例の内容と条文に不備が多く、上程された第79号議案は、本庄市議会として制定を認められる条例案では全くありません。

 第78号議案反対討論で申し上げた通り、運営していく中で、社会情勢や上位法の改正に応じ、条文を改正しながら運用するものだ、ということは十二分に理解しつつも、第79号議案における不備は、それにあてはまらない項目の不備が多数あることから、議議案として修正案を作成し提出することを検討し、実際に作成もしましたが、修正内容が多岐にわたり、また、条例の核の部分、趣旨目的規定に手を入れなければならない状態でしたので、修正ではなく、不備だらけの条例案について今回反対し、議会に上程できるレベルにまで昇華させたのちに再提出して頂くことが最善と判断いたしました。

 申し添えますが、当初より開館予定としていた6月には、3月議会に条例案を上程しても差し支えない事から、不備のまま急いで今議会において新規に定める必要は無く、かつ、今後の指摘内容からも明らかなように、新しいミュージアムをより良く運営することを目指す建設的な反対である事は疑う余地がなく、施設の適正な運営のため、また今後の発展のための前向きな反対であります。

 それでは、第79号議案について、明確に、反対理由である不備を指摘致します。お断りしておきますが、不備は非常に多く、不備と判断するその根拠も大変に多数ありますが、その中でも、議会の皆さまが可否を判断する際に把握して頂きたい点を中心に、以下述べて参ります。

 第一にして、最も不備であるのは、第1条の設置の条文です。条例の中で、趣旨目的の規定は、「核」の部分であります。業務を行いながら、適宜変えていく性質のものではありません。

 今回のミュージアムの条例を見れば明白なように、その趣旨目的規定が狭すぎるのです。第79号議案条文第1条では、ミュージアムの資料として「郷土についての」と限定した条文になっているため、郷土に関しない資料の展示はない、と読み取ることしかできません。しかしながら、本庄市議会において、また委員会でも一般質問に対する答弁でも、説明があったのは、当初より郷土に関しない資料の展示をする、というものです。具体的には、早稲田大学の保管する郷土ではない遠隔地から出土した土器や、他国の民族資料であるオセアニア民族資料がそれにあたり、また、今後特別展や企画展も行う構想からしても、ミュージアムには相当数の郷土に関しない資料が展示される予定が開館前の構想の段階から、しっかりと、確実にあります。しかし、第1条で「郷土についての」とミュージアムが扱う対象資料を郷土と限定してしまうことは、特にオセアニア資料については、本庄市との関連付けがそもそも不明瞭である中、更に、市民に誤解と疑念を抱かせる条文となっています。

 このミュージアムが、隣接する市町を含めた地域の、歴史文化の中核となるミュージアムの構築を目指すという構想、設立の目的があることを承知してさえいれば、「郷土の」と限定することは、全く理にかなっていない、と、判断できるはずです。条例の中でも「核」である趣旨目的が施設の特徴とそぐわないものを、我々の議決で、新規に定めることについて看過できるものか、答えは、「否」のみである、こう判断できるはずです。

 本来であれば、第1条は「郷土を中心とした」と、「中心とした」というものを付すべきであったと指摘します。また、第1条・条文中には、来館者にとって主となる部分、「展示」についての記載もなければならず、「展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し」という文言が入らなければ、適切ではありません。

 第二の問題点にして、見過ごすことが出来ないのは、意図的に削除した部分がある、第3条の業務の部分です。

 ミュージアムは、廃止予定の本庄市立歴史民俗資料館が廃止されるに伴い、その機能が移管され今後担うものとして設置されます。従って、従前の条例、即ち歴史民俗資料館の設置管理条例を引き継ぐものであって然るべきです。

 しかしながら、従前の設置管理条例と今回提案された新たな設置管理条例の業務を比較すると、意図的に削除した文言があり、それは小さいように見えて、とても大きな問題です。具体的に申し上げます。ミュージアム第3条の2では、もとの条文にあった「専門的及び技術的な」という文言、5については「専門的な」という文言が削除されています。

 ミュージアムないし博物館、あるいはそれに相当・類似する施設の存在意義、設置の趣旨・目的は、「専門的」ないし「技術的」に資料に関する調査研究をし、かつ「専門的」に展示等の手段を通じて教育普及すること、であります。つまり、「専門的」、そして技術的に業務を行うことが、施設の目的であり、中核です。業務より「専門的」ないし「技術的」を削除するという事は、そもそもミュージアムが担うべき資料に対する「専門的」技術的な役割を担わず、展示はするものの何をどう展示して良いか判断をつけずに並べて置いておくだけ、これを陳列と言いますが、陳列する専門的では無い展示施設を、「歴史と文化のまち本庄」として新規に設置することを宣言していると、条文を読んだ市民は思います。

 新ミュージアムの構想は、地域における歴史文化の中核施設となるものだ、と議会に対し説明しながらも、その内容からは到底整合性がないと言える条文を含む条例を今回、議会へ提出しているということは、驚くべき事態であると言え、まさに今、我々の見識が試されているのです。

 博物館法上でも、第三条博物館の事業(第四項)において、「資料に関する専門的、技術的な調査研究」とあることからも、上位法に照らし、「専門的、技術的」と記述することが適切なことは明白です。

 更に、従前にはあった条文、「(3)資料の案内書、解説書並びに調査研究の報告書等の作成及び頒布に関すること」という部分が、全て、まるまる削除されています。

 ミュージアムにとって、中心は展示ですが、その展示は、専門的な調査研究の成果に基づいたものでなければなりません。そして、その調査研究の内容については、市民にわかり易い形で、「調査研究の報告書」として出さなければならないことは、博物館法第三条「博物館の事業」第六項「博物館資料に関する案内書、解説書、目録、図録、年報、調査研究の報告書等を作成し、及び頒布すること」と定められていることからも明らかで、新規条例において報告書の発行を定める業務を削除したことは、大きな問題であると強く指摘致します。

 また、先ほどの報告書の項目を削除したことにあわせ、これまでの設置管理条例における業務では、1として資料の収集・整理及び展示としていたものを、新たな条例では3資料の展示及び利用に関すること、と、意味もなく新たに項目を別けています。これは、もとの条例にあった報告書の項目を削るにあたり、もとの条例と新たな条例を比較した際に、項目が削除されていることを一見ではわからないようにする工作であると考えられ、それは項目を別けた意味がないことからしても明らかで、あります。

 第三の問題点として、いつのまにか(仮称)が取れた、「本庄早稲田の杜ミュージアム」という、ミュージアムの名称について指摘します。本庄早稲田の杜、という名前について、またはミュージアム、というものも含めて、どのように選定し、その民意を図り、決定したのかまったく不明瞭であります。

 今議会、委員会質疑において文化財保護課に、新しい博物館の名称について誰かの、特に市民の意見を聞いたのか、いつ仮称ではなくなったのかを確認したところ、特に名称に関する意見を聞いたことはなく、また、仮称が取れるのは、この第79号議案、設置管理条例の中で名称が定まったのち、という説明でした。

 まずは、名称の問題を述べますが、なぜ「本庄早稲田の杜ミュージアム」という名称になったのか、そして市民の意見を聞かないならば、これまで何のために(仮称)とつけて扱っていたのか、まったく不明瞭です。仮称、としていたならば、誰かの意見を聞く場、市民でも、議会でも、専門家でも、仮称を取る条例を制定する前に、その名称で良いか、話し合う場が必要で、だからこそ仮称とするのではないでしょうか。私には、初めから、「本庄早稲田の杜ミュージアム」という名前ありきで、変えるつもりはないものの、名称について指摘されるのを防ぐために仮称を付けておいたように見え、また実際、名称決定に際し意見を聞いていないことからも、そうとられてしまうことは仕方ない事だと指摘できます。

 ここで、「本庄早稲田の杜ミュージアム」という名称が新博物館には適さない理由を少し挙げれば、一つとして、そもそも歴史民俗資料館の代わりとして、本庄市全体の展示施設として設置され、広く地域の文化拠点となるというミュージアムの構想と展示内容からして、「本庄早稲田の杜」という一地域のみの名を冠する事が適さない事、二つとして、市民にとって「本庄早稲田の杜」という名称になじみがない事、三つとして「本庄早稲田の杜」というものが「協力し合い、長い年月をかけて育む緑を意味し」、「環境と調和した新たな市街地が築けるよう」命名された地域名であって、考古資料を中心とした歴史系ミュージアムの名前として、緑や環境に関する「杜」という文字を入れることがそもそも不適当なこと、四つとしてミュージアムという名称が、歴史資料を中心とする人文系の展示施設の名称として、適していないという事などが挙げられます。

 また、驚くべきことに、この議案が認可されれば仮称が取れる、と委員会で説明があったと先ほど述べましたが、それに先んじて、広く市民に見られる広報誌、教育委員会編集・発行の「市教委だより」、令和元年10月15日発行のNo.28において、仮称をとった状態で、「本庄早稲田の杜ミュージアム来春オープン」と紹介されており、議会で議決を受ける前に、その名称について、仮称をとって広報していることは大問題であり、質問に対する答弁の誤りも含め、議会として憤りを持つべき案件であると指摘致します。

 以上の点から、意見を聞かずに、今のまま仮称を取ることは、その名称に議論の余地が十分にあることや、名称について市民や議会において議論が十分になされないまま定められてしまうことから判断して、不適切であると指摘できます。今後、本庄市民・近隣住民から愛される施設となるためには、名称について、場を設けてしっかりと議論することが必要不可欠です。

 第四の問題点として、設置を定める第1条中、あるいは別条も含め、旧本庄商業銀行煉瓦倉庫の記載が無いという点を指摘します。レンガ倉庫に近世以降の中山道に関する資料を展示することは当初から計画にあることであり、その管理について、令和元年第4回定例会の議案質疑の際「旧本庄商業銀行煉瓦倉庫の展示はミュージアム職員が行う」と高橋事務局長が答弁しました。しかし、この条例には、管理する規定がされておらず、その他条例中どこにもその記載は無く、レンガ倉庫にて市民の財産である資料を展示し管理するミュージアムの条文としては不備であり、本来この条例にしっかりと明記するべき内容だと指摘致します。

 この他、第4条、第5条、第10条、第11条・第14条、寄贈・寄託、資料の貸し出し、開館時間の延長など、条文に多々問題があるという点を指摘します。

 さて、ここまで条例の問題点について述べましたが、これらの問題点について、委員会でも十分なまでに質疑をし、回答を得て理解しようと努めましたが、全く解決しませんでした。これら多くの問題点を抱えたまま、可決するということは、私が挙げた問題点については、指摘が正確ではない、あるいはそれでも原案が正しいという判断であると推察いたします。

 最後になりますが、厚生文教委員会の委員の質疑において、委員より出された「先ほどと同じで、検証して、今後に活かすか」という質疑に対し、文化財保護課は「展示を開始して運営していく中で検討していく」と述べております。

 私が指摘した点も含め、初めから不備があって改正の可能性がある条例を議会が追認することは、あってはならないことです。

 以上の点を踏まえ、郷土の歴史と文化を愛する皆さまに対し、原案の問題点についてご認識頂いた上で、委員会審査独立の原則に基づき、本庄市議会として追認することがあってはならない、と強く主張し、第79号議案、「本庄早稲田の杜ミュージアムの設置及び管理に関する条例」を、博物館学や歴史学に精通する専門家として、自信を持って反対するべきものとして、反対討論といたします。

うちだ えいすけ 【本庄市議会議員 内田 英亮】/Official Website

美しい、本庄へ。あなたと うちだ えいすけ の、愛あるまちづくり -本庄市議会議員・内田 英亮のオフィシャルウェブサイト-