【討論】競進社模範蚕室の条例制定について(2019年第4回定例会・反対討論)
第78号議案、「本庄市競進社模範蚕室の設置及び管理に関する条例」について、制定することに反対の立場から討論を行います。
第78号議案は、第80号議案で提出されている「本庄市文化財設置及び管理に関する条例を廃止する条例」に伴い、本庄市競進社模範蚕室を引き続き設置して管理するため、新規に条例を制定し必要な事項を定めるものです。
しかしながら、あまりにも条例の内容と条文に不備が多く、今回上程された第78号議案は、本庄市議会として制定を認められる条例案では全くありません。
条例の制定・改廃権は、予算の議決権と並び議会における最も重要な権限であり、市が定める条例案についてその内容が適切かどうかを判断することは、市民の代表たる我々議会に課せられた大きな使命であります。
もちろん、条例というものは、最初から100%出来上がっているものは無く、運営していく中で、社会情勢や上位法の改正に応じ、条文を改正しながら運用するものだ、ということは十二分に理解しております。
一方、今回上程された第78号議案における不備は、それにあてはまらない項目の不備が多数あります。議議案として修正案を作成し提出することも検討し実際に作成もしましたが、修正内容が多岐にわたり、また、条例の核の部分、趣旨目的規定に手を入れなければならない状態でしたので、修正ではなく、不備だらけの条例案について今回反対し、競進社については現在ある設置管理条例で運用しながら、議会に上程できるレベルにまで昇華させたのちに再提出して頂くことが最善と判断いたしました。
申し添えますが、競進社の運営については、現在既に設置管理条例が定められておりますので、不備のまま急いで今議会において新規に定める必要は無く、現行の設置管理条例で十分運営でき、かつ、この点や今後の指摘内容からも明らかなように、競進社のより良い運営を目指す建設的な反対である事は疑う余地がなく、施設の適正な運営のため、また今後の発展のための、極めて前向きな反対であります。
それでは、第78号議案について、明確に、反対理由である不備を指摘致します。お断りしておきますが、不備は非常に多く、不備と判断するその根拠も大変に多数ありますが、その中でも、議会の皆さまが可否を判断する際に把握して頂きたい点を中心に、以下述べて参ります。
第一にして、最も不備であるのは、第1条の設置の条文です。条例の中で、趣旨目的の規定は、「核」の部分であります。条例の趣旨目的は、わかりやすく一般の会社で言えば「社是」にあたるものであり、その会社の根幹となる方針であります。業務を行いながら、適宜変えていく性質のものではありません。
この考え方は、何も私個人の見解ではありません。我々のバイブル、議員必携203頁にも「条例案・審議の着眼点」として1番項に「何の目的で制定されるのか」があり、議会としてその条例の必要性を認める基本は、制定の目的を明確にし十分理解すること、そしてそのうえで判断することである、と明記されております。議員として、条例審議にあたっては、その目的をしっかりと理解し、またそのためには、特に目的規定の部分については市民の立場に立ち、条例の基本である「住民のための条例」になっているか、即ち住民にとってわかり易くかつ明確な表現かという観点に立脚して審議しなければならないはずです。
競進社の設置目的を見ると明白なように、実態とはかけ離れて、その趣旨目的規定が広すぎるのです。第78号議案条文第1条では、「本庄市が所有又は管理する文化財を保存し、かつ、その活用を図り、もって市民の文化的向上に資するため」と記載されています。しかし、ここで広く「本庄市が所有又は管理する文化財を保存し、かつ、その活用を図り」と記載することは、競進社の趣旨目的としては全く適正ではありません。ここにいるみなさまは周知のとおり、競進社は、これまでも、いまも、そしてこれからも、絹産業と養蚕及び製糸に関する歴史・文化について、県指定文化財である建造物、つまり競進社を活用して内部で展示する施設です。第78号議案の設置管理条例は、競進社単独の条例として、今回新たに定めるものであるため、ここでは、「文化財」と広く規定するのではなく、「郷土の絹産業と養蚕及び製糸に関する」と、競進社設置の正確な趣旨目的が、第1条では規定されなければなりません。
一方で、原案のままでも、「文化財」と広い規定なのですから、その意味において「絹産業と養蚕及び製糸に関する」資料も含まれるだろう、という考え方もあるでしょう。しかしながら、「文化財」という言葉が指す対象は非常に広く、土師器や須恵器から甲冑や刀、古文書や戦時中の軍服や頭巾なども含むことになります。
現在、競進社の条例である「本庄市文化財施設設置及び管理に関する条例」では、本庄市立歴史民俗資料館と並列で、2館の条例を定める形になっているため、目的規定は広くて差し支えありません。
しかしながら、今回、歴史民俗資料館を閉館することから条例を廃し、競進社「単独」の設置管理条例を定める上で、「文化財」と広く規定することが、競進社設立の趣旨目的として果たして正しいのか、条例の中でも「核」である趣旨目的が施設の特徴とそぐわないものを、我々の議決で、新規に定めることについて看過できるものか、答えは、「否」のみである、こう判断できるはずです。
競進社の中に、例えば甲冑を展示する可能性があると思いますか。または、展示してあったら、みなさん、そして来館者、市民のみなさまは、どう思うでしょうか。条例で「文化財」と広く規定するという事は、その可能性について、我々は議会として、認めたことになります。誰が読んでもわかり易く理解できるのが条例であり、読み方によっては先ほどの指摘のように拡大して読めてしまう「文化財」という条文の問題は、競進社の持つ魅力や活用方法について把握してさえいれば、不適切であると誰でも判断するでしょう。
加えて、テーマを絞った展示をしている施設では、その条例で、多くが明確に趣旨目的を規定しています。一例ですが、本市と似て、展示施設を複数持つ秩父市の条例をみても、秩父市立秩父事件資料館の条例第1条設置には「秩父事件に関する」と、秩父市武甲資料館条例第1条設置には「石灰石採集によって変容する武甲山に関する」となっており、目的で資料の幅を広く設定しているのは、秩父市立浦山歴史民俗資料館、秩父市立大滝歴史民俗資料館、秩父市立荒川歴史民俗資料館と、幅広い資料を展示する施設のみです。テーマを絞った展示をしている施設では、その条例でテーマに沿った趣旨目的を入れることは至極当然であり、絹に関する展示施設の例として、競進社と似た施設である市立岡谷蚕糸博物館条例の趣旨目的は「我が国の蚕糸業の発展の過程における蚕糸機械・器具」と明確に規定しています。更に、本市の塙保己一記念館の条例においても、第2条目的で「記念館は、塙保己一の思想と偉業を顕彰し、かつ、郷土愛の高揚を図り、もって遺品等歴史資料の展示及び保存管理を行うとともに住民の福祉を増進することを目的とする」としっかりと記載されています。広く見るならば、塙保己一記念館の展示の中心も、文化財であります。同じ市、本庄市の設置管理条例の中でも、塙保己一記念館はしっかりとテーマに沿った書き方になっている一方で、同じくテーマを絞った展示施設である競進社の設置管理条例の趣旨目的として「文化財」と広く規定することは誤りである、と強く指摘いたします。
第二の問題点として、文化財施設である競進社を活用した「展示」についての記載が、条文のどこにもない点があります。次に指摘するところですが、業務として条文に落とし込んでいない以上は、第1条の目的に「展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し」という文言が入らなければ、文化財を活用して展示施設としている、競進社の実態に即さないことから、極めて不適切であると指摘できます。
第三の問題点にして、見過ごすことが出来ないのは、第78号議案には「業務」の条文が全くない点です。これまでの競進社の条例にはしっかりと記載されていたにもかかわらず、中身を精査して整理する、ということではなく、全くすべて削除されてしまっています。施設を設置したが、その施設が行う業務の規定が設置管理条例には無い、つまり、業務をしない施設を作り上げる可能性が高い、条例案になっているのです。
従前の条例では、その業務として、①資料の収集整理保管展示、②資料の専門的技術的な調査研究、③資料の案内書・解説書並びに調査研究報告書の作成と頒布、④資料の専門的な知識の普及、⑤その他目的達成のための業務が記載されており、全て、文化財を展示する施設として絶対に欠かす事の出来ない業務、最低限こなす必要のある根本業務がしっかりと記載されていました。
しかしながら、今ある条例を今回新たに制定するに際し、新規条例の中から業務を「全て」削除し、かつ、今ある条例の中で定めた業務のうち、何点かは削除し整理することがあることについては理解できるとしても、全てを削除するという事は、全く、ありえません。
つまり、競進社は条文にある「市民の文化的向上に資する」ため、具体的にどのような業務を通じてその目的達成をするのか、新規条例中では規定していない、ということです。市民の税金で成り立つ施設、その設立根拠となる条例に業務がない、言わば何をするのか定まらない施設を作り上げることを宣言する条例を、議会が認めるわけにはいきません。
ちなみに、先にあげた、秩父市における資料館は、私が先ほど挙げた全ての資料館の条例に、業務が、しっかりと定められております。
第四の問題点として、競進社の施設運営委員会について、新規条例で定めていない点です。これまで、資料を展示する施設について審議する「文化財施設運営委員会」があり、この運営委員会は、歴史民俗資料館と競進社、この2館の運営委員会として存在していました。
歴史民俗資料館は閉館される予定なので、運営委員会は必要なくなりますが、競進社は引き続き、新規条例のもと、展示施設として活用されるのですから、当然、運営委員会については存続・継続して設置しなければなりません。運営委員会については、「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」の第4条、「運営の状況に関する点検及び評価等」の第二項に定められているもので、本市でもこれを受けて設置・運営していたものです。
これまで2館のために設置していた運営委員会を、歴史民俗資料館が無くなるので、残さない、ということであるならば、競進社という施設について、軽んじているからに他なりません。
しかしながら、埼玉県に数少ない絹産業の近代化遺産を展示施設として活用することは、近代における郷土の産業と養蚕の歴史を学ぶ場として、市民の学習・郷土愛の高揚を図ることはもちろん、群馬県4市町、埼玉県3市の絹産業遺産群をつないだ「上武絹の道」など、近隣の市町とともに本市における観光の拠点として大変意義のある競進社は、貴重な展示施設です。
加えて、第79号議案として上程された、本庄早稲田の杜ミュージアムには、その条例の中に運営委員会がありますが、その運営委員会は本庄早稲田の杜ミュージアム単独の運営委員会であり、競進社を含む運営委員会ではありません。
従って、歴史民俗資料館を廃し、新たに本庄早稲田の杜ミュージアムの中に運営委員会を設け、競進社の条例に運営委員会を定めないのであれば、本庄早稲田の杜ミュージアムの運営委員会が競進社をも包括する運営委員会でなければ、これまでの経緯や設置の目的からみても整合性が無いのですが、そうなってはいない点は、大変問題である、と強く指摘します。
この他、館長の職務、寄贈・寄託、資料の貸し出し、特別利用の条文が無いことや、第6条など、多々問題点がある、と指摘します。
さて、ここまで条例の問題点について述べましたが、これらの問題点について、委員会でも十分なまでに質疑をし、回答を得て理解しようと努めましたが、納得のいく説明はありませんでした。これら多くの問題点を抱えたまま、可決するということは、私が挙げた問題点については、指摘が正確ではない、あるいはそれでも原案が正しいという判断であると推察いたします。
最後になりますが、厚生文教委員会の委員の質疑において、委員より出された「これだけ意見が出た。不備等を検証して、1年足らずで見直すべきでは」という質疑に対し、文化財保護課は「例規担当とも相談してしっかりと検証していく」と述べております。
私が指摘した点も含め、初めから不備があって改正の可能性がある条例を議会が追認することは、あってはならないことです。
以上の点を踏まえ、郷土の歴史と文化を愛する皆さまに対し、原案の問題点についてご認識頂いた上で、委員会審査独立の原則に基づき、本庄市議会として追認することがあってはならない、と強く主張し、第78号議案、「本庄市競進社模範蚕室の設置及び管理に関する条例」を、博物館学や歴史学に精通する専門家として、自信を持って反対するべきものとして、反対討論といたします。
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